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「会社を伸ばすための経営学」(2021年11月号)を掲載しました

コラム
2021.11.1

「適正在庫について今一度考えましょう」

深谷の皆様、こんにちは。
 コロナ以外の原因によるものもありますが、近年、自動車、パソコンなど様々なものの納期が長期化しています。私もパソコンを注文したのですが、納期まで3か月ととても時間がかかった上に不具合が出てしまい、予定が大幅に狂ってしまいました。
 先日、定期のお客様を訪問させていただき、経営相談に乗っていたところ、コロナ禍におけるサプライチェーン崩壊の話になりました。その企業は自動車部品の供給会社なのですが、その会社の製造能力はほぼコロナ前まで戻っているものの、最終製品の納期が滞り、部品の
注文も鈍化しているので、生産できる能力があるにも関わらず生産調整しているとのことです。また、材料の納期も遅れたり急に高騰したりしています。
 「そもそも、うちも他の会社も在庫を持たなくなったのが悪いんだよねぇ」
 その製造業の社長が何気なく言った一言ですが、これが様々な意味で的を射ているのではないかと思います。
 私が学生の頃だったと思いますので、おそらく今から30年近く前ですが、DellのBTOモデルがもてはやされました。BTOとは、Built To Orderすなわち、受注生産方式ですが、このメリットとして在庫を持たない効率性が持てはやされていました。また、その後、セブン&アイホールディングスの鈴木社長など、レジシステムによる販売分析による在庫削減の有利性を説き、世の中に「在庫は悪」の風潮が蔓延してしまいました。
 もちろん、在庫を持つことは、余計なキャッシュフローが必要となる、廃棄や陳腐化のリスクがある、業務の邪魔になる、スペースなどのリソースの無駄使いになるなど、経営効率を悪くしますし、在庫を持たない戦略は正しい側面も多いと私も思います。しかし、経営学は成功、失敗の二択の学問ではなく、成功に思えることにもデメリットが存在するものです。当時、私は生鮮流通業にいましたので、この在庫を持たないことについては、非常に興味を持ち、様々な取り組みをしてきました。しかし、私にはメリットよりもデメリットの方が多く感じたのです。
在庫は、リスクやトラブルに対する対抗手段になり得るということもありますが、在庫は売上の「弾」だからです。
 一概には言えませんが、多くの企業が売上を伸ばしていきたいと考えていると思います。しかし、過去のデータなどを参考にして在庫を持つと、単価が同じであれば過去の売上を超えることはありません。お客様が来ていても、打つべき弾、すなわち売るものがなければチャンスロスが生まれてしまいます。また、従業員の心理的な面を考えても、在庫が無くなれば「まあ、こんなもんでいいか」と考えてしまいがちです。逆に在庫が見えると「何としてもこれを売り切らなければ」と今までを超える売上に挑戦する気にもなります。さらに、在庫があるから、余計な工夫をすることもあります。失敗してしまうこともありますが、瓢箪から駒で、中には商品や販売方法などの新たなアイデアが生まれることもあります。
 在庫を捨ててしまった数値などを「ロス」と言って、低ければ低いほど良いとされますが、私が若いころ修行させていただいたスーパーマーケットではロスがある一定上下回ると逆に評価が下がってしまいました。それは、ロスが無いということは挑戦していない証拠だ、そして、それはお客様に迷惑をかけているともいえる、とのことだと教えられました。
 コロナ禍で経営が苦しい時代、どうしても在庫は怖いかもしれません。もちろん不良在庫は無くすよう努力しなければなりませんが、是非、「適正在庫」について考え、挑戦する企業風土にしていきませんか。

株式会社ディセンター代表取締役 折原 浩

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