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「会社を伸ばすための経営学」(2023年1月号)を掲載しました

コラム
2023.1.1

「IT人材育成が必要だ、議論に違和感」

 深谷の皆様、こんにちは。
 先日、とある委員会でのお昼休み、委員長を務めていたコンサルティング業界の重鎮が、「今、日本が最優先に行わなければならない重要課題はIT人材の育成だ」と力説していました。
 これに関しては、だいぶ前から言われていることで、真新しさもなければ、否定する要素もないのですが、改めて力説されている方を見て「IT人材の育成が重要だ」と言っていること自体に問題があるのではないかと違和感を覚えました。
 ITは現代において、どのようなビジネスを行うにしても必須のものです。進化も目覚ましく、それを使いこなすには、特別なスキルとリテラシーが必要だと思っていました。だからこそ、特別な教育が必要なのだと…
 現在、私の子供は2人とも小学生です。生まれた時からスマホやタブレットが存在していた世代です。彼らは朝から晩までタブレットやゲームをいじっている普通の小学生だと思います。しかし、私は、この2人がITを勉強しているのを見たことがありません。
 近年のIT機器には説明書がありません。直感的に使えるように設計されていますし、わからないことがあれば、検索することで操作方法情報を手に入れることができます。動画視聴サービスには、無料で丁寧に解説してくれている人もたくさんいます。SNSで気軽に誰かに聞くことも簡単になりました。ITはもはや、昔のように、「勉強して」使うものではなくなってきているのです。
 そもそも、ITはインフラであり、IT機器は「道具」です。もちろん、習熟を必要とする道具や構造が分からなければリスクが大きい道具もあるかと思います。しかし、道具とは、本来、難しい作業を簡単にするためのものです。道具自体に難しさを感じるのは本末転倒です。
 もちろん、初期設定やトラブルシューティング、今後技術の発展により今できないことができるようになるようなこともありますから、ある程度の組織においては、習熟している人が必要な場合もあるかと思います。しかし、中小企業、とりわけ小規模企業において、専門的な「IT人材」が必要でしょうか。どうしてもの時でさえ、外部専門家や専門業者が存在すれば問題ないかと思います。むしろ、特定の人員に専門領域を設定してしまうことで、業務効率化やコミュニケーション、チームワーク、個人の能力やリテラシーアップを阻害してしまうのではないかと思います。
 ITはもはや、我々の生活や仕事に密着したものとなっています。落ち着いて考えてみれば、私たちのほとんどは、既にスマホやIT対応のテレビや家電を使いこなしています。
 「100の機能を使いこなせていない」と反論を頂きそうですが、では、IT機器より以前にあった道具の機能や能力を私たちは100%使いこなせていたと言えますか?最初は乗れなかった自転車を、多少練習しましたが誰にも教わらなくとも何とか使っていましたし、パンクすれば、工夫して何とか自転車屋にまでもっていっていたと思います。ITに比べて自転車の構造は単純なのかもしれませんが、習っていなくても何とか構造を理解していました。
 おそらく、現在のITとは、そんなもので、子供たちは私たちが自転車を乗りこなしていたのと同じような感覚でITを使っているのだと思います。
 そう考えたら、私たちは、「IT人材」なるものを定義し、特別に育成することが急務なのではなく、ある意味、ITに対する肩の力を抜き、分からないなら分からないなりに付き合い、困ったら、助け合いながらも、みんながその人なりに学び習熟していくことが大切なのではないでしょうか。そう、もはや「IT人材育成」など死語なのです。と言っている私も、実は、現代のITを使いこなしているとは言い難い状況です。みなさん、ともに習熟していきましょう。

株式会社ディセンター代表取締役 折原 浩

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