「会社を伸ばすための経営学」(2025年1月号)を掲載しました
「今年は渋沢経営でいく」
新年、明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします。さて、新年ということで、どんな話題が良いか悩んだのですが、やっぱり「今年、どのような経営をしていくのか」というテーマが最も適していると思います。
結論を言うと、今年は「渋沢経営を志していく」と良いのではないでしょうか。
渋沢は、自分が関わった約500社において、新しい方向に進む時や課題、問題が出た時にその方向を示したと言われています。その経営スタイルを見ていくには、ライバルである岩崎弥太郎の経営スタイルとの比較が良いでしょう。岩崎弥太郎の経営スタイルは、一言で言うと「内々の経営」と言われます。利益を外に出さない経営です。例えば、自分の会社がA社からモノを買っているとします。この取引において利益がお互いに出ていたら、A社を買い取って利益が外に出ないようにします。また我が社の社員が買い物をしたとします。そのお店も買収すれば、利益が外に出ないで済みますし、家を建てる時も我が社の住宅部門で立てればその利益もグループで巡回します。
一方、渋沢栄一の目指していたのは「外も豊かにする経営」です。利益は見込めなくともなるべく外側へ投げよ、多くの人に利益が行き渡るようにせよ、という経営。一見、無謀にも見えますが、投げた利益は人々の間を回って大きくなって帰ってくるというものです。ある時、お弟子さんが渋沢に聞いたそうです「先生、これって生きているうちに却ってこなかったらどうするのですか」と。すると渋沢は「子供に却ってくるかもしれない、孫や子孫に却ってくるかもしれない。いや、却ってこなくてもいいではないか、人々が喜んでいるのだから…」と言ったそうです。
今の日本の経営は、岩崎スタイルの圧勝でしょう。例えば、設備投資を行う時は投資対効果を考えますし、今現在元気な大企業は「利益を外に出さない」経営をしています。例えばトヨタは自動車を売っていますが、トヨタホームは住宅を売っています。また、貿易は豊田通商が行っています。利益が外に出ない経営はある意味正しいと言えるでしょう。
しかし、日本をリードする企業は社会貢献も大きく行っています。例えば音楽ホールは企業所有のものも多いですし、スポーツも企業がオーナーのチームがほとんどです。これらが全て企業の収益になっているかと言えば、おそらく半数、いや8割が赤字ではないでしょう
か。中には、企業の認知度などを上げることに貢献していることもあるかもしれませんが、ほとんどの投資効率は合わないのではないでしょうか。では、それでもなぜ、企業は利益の一部をそこに入れるのか、おそらく、永年の企業経営から、「それが企業収益に会う」とわかっているからでしょう。いや、それこそ、子供や孫の代(大企業は世襲制でないところもありますから、後の経営陣というところでしょうか)に却ってくればいいんだということかもしれません。
一方で私たち中小企業は、どうでしょうか。「私たちはそんな利益はない」と言いたくなるかもしれませんが、利益の一部、それこそ3~5%でも社会のために、地域のために、好きなスポーツのために使ってみてはいかがでしょうか。おそらく、これこそ、渋沢翁が一万円札になった理由だと思いませんか?
株式会社ディセンター代表取締役 折原 浩