「会社を伸ばすための経営学」(2026年9月号)を掲載しました
「「変わらないこと」の強さ」
深谷の皆さん、こんにちは。9月になると、朝晩は少しずつ涼しくなり、ようやく秋の気配を感じるようになります。夏の慌ただしさも落ち着き、「今年もあと4か月か」と考える方も多いのではないでしょうか。
先日、長年続いている小さな会社を訪問する機会がありました。創業から70年以上。派手な広告を出しているわけでもなく、急成長している会社でもありません。それでも、地域のお客さまから長く支持され、今でも安定して経営を続けています。そこで社長に、「長く続ける秘訣は何ですか」と尋ねてみました。返ってきた答えは、とても意外なものでした。「特別なことは何もしていません。変わらないことを大事にしているだけです」最初は少し拍子抜けしました。しかし、話を聞いているうちに、その言葉の意味が少しずつ分かってきました。毎朝、必ず店を掃除すること。お客さまの名前を覚えること。電話は3コール以内に取ること。約束した納期は必ず守ること。当たり前と思われることを、何十年も続けてきたというのです。
最近は、「変化」が経営のキーワードになっています。DX、AI、新規事業、新商品、新サービス。もちろん、どれも大切です。私自身も、講演や相談の中で、新しい取り組みの必要性についてお話しすることがあります。しかし、その一方で思うのです。新しいことが成功する会社ほど、実は「変わらないこと」を大切にしているのではないか、と。例えば、飲食店であれば、料理の味が毎回違っていたら、お客さまは安心して来店できません。工務店なら、約束した日に来てくれることが信用につながります。製造業なら、品質が安定しているからこそ、新しい仕事を任せてもらえます。つまり、「変わらないこと」が信用を生み、その信用があるからこそ、新しい挑戦ができるのです。
経済の世界でも、景気は良くなったり悪くなったりを繰り返します。金利も変わりますし、物価も変わります。技術の進歩もますます速くなっています。だからこそ、「何を変えるか」と同じくらい、「何を変えないか」を決めることが重要になります。最近は、生成AIの話題を耳にしない日はありません。仕事のやり方は、これからも大きく変わっていくでしょう。しかし、どれだけ便利な時代になっても、「約束を守る」「誠実に対応する」「お客さまの立場で考える」といった基本は変わりません。むしろ、世の中の変化が激しい時代だからこそ、そのような当たり前のことの価値は、以前より高まっているように感じます。
小さな会社は、大きな会社のように潤沢な資金や人材があるわけではありません。しかし、一つのことを長く続ける力では、決して負けていません。「うちの会社といえば、これだ」そう胸を張って言えるものが一つあるだけで、それは大きな強みになります。それは技術かもしれませんし、接客かもしれません。仕事の丁寧さや、迅速な対応かもしれません。
9月は、今年の後半戦が本格的に始まる時期です。新しい挑戦を考えることも大切ですが、それと同時に、「自分たちが長年続けてきた強みは何だろう」と、一度振り返ってみてはいかがでしょうか。
株式会社ディセンター代表取締役 折原 浩