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お知らせ

「会社を伸ばすための経営学」(2023年4月号)を掲載しました

コラム
2023.4.1

「運の総量」

 深谷の皆様、こんにちは。いよいよ新年度ですね。本年度は、コロナ禍からの復活だけでなく、新たな事業へと、生まれ変わりの1年にしたいですね。
 新規事業進出の一つの手段として、M&Aもあります。新規事業を一から立ち上げるのではなく、既存事業主からの譲渡を考える方法です。ひと昔前まではネガティブな印象が多かったM&Aですが、今は、公共機関もマッチングサービスを提供するなど、新事業展開の手段の一つとして認知されつつあるかと思います。
 普段の経営相談でも、M&Aのことをあまりにも聞かれるので、私自身、「M&Aアドバイザー」なるものになってみました。様々な勉強をする中、非常に驚いたのは、近年、小規模企業のM&Aが多いということです。正直言うと、よっぽどの事情がない場合、売却はお勧めしませんが、自分たちの戦略と合えば、新たな事業を獲得してみるのはありだと思います。
 最大の理由は、現在のM&Aにおける、企業(事業)価格の算出根拠です。企業の時価総額の計算は、営業権やノウハウなど、「のれん代」と呼ばれるものがブラックボックスだったのですが、近年のM&Aにおいては、単純に、「純資産+三年分程度の当期純利益」で計算する場合が多いそうです。おおざっぱで乱暴な話だと思います。これだと、今までの事業努力を反映しているとは言い難く、ほとんどの小規模企業は、ゼロ、もしくはマイナスになってしまいます。そこで、事業主の退職金や減価償却済みの資産を評価して、少しだけ値段を付けているのが現状です。それでも、事業継続できるのであればと、多くの事業主が買収に応じているのです。
 逆に言うと、買い手から見たら、ものすごくお得だと思います。例えば、既存客や既存仕入先、営業権、業務になれた従業員、業績などの無形資産が無料同然で手に入ることになります。一から立ち上げるよりは、効率的に新規事業を立ち上げることができるでしょう。また、M&Aには、企業全体を行うものと、特定の事業のみを分離して行うものがあります。状況によっては、相手の会社全体ではなく、自分たちが経営する事業のみを獲得することもできます。また、「他の人がやってうまくいかない事業を、自分たちがやっても、はたしてうまくいくのか」と不安になることもあるかと思います。しかし、経営革新の考え方では、「新たな商品・サービス」、もしくは「新たな販売方法」があれば、それをきっかけに、事業全体をイノベーションすることができます。
 気を付けなければならないのは、どんなに慎重に行っても、含み損などの目に見えない負債や、問題のある従業員の存在、誹謗中傷など、分かりづらいマイナス点がある危険性があることです。また、M&A時には問題でなかったとしても、社員のモチベーション低下などの問題が新たに起こるかもしれません。
 私は、何も、「M&Aは得だから実行すべきだ」と言っているわけではありません。しかし、ここまで、一般的になってきていて、今後もこの方向性が変わらないように思えるので、「選択肢の一つには入れるべきだ」と考えています。現在、一番多いM&Aは、同業種の吸収、救済です。
しかし、直接的に現在の業務を大きくするM&Aも良いですが、渋沢栄一翁も「カネは人々の周りを回り巡って大きくなって帰ってくる」との趣旨を言っているように、直接的な利が見えるものではなく、既存事業とシナジー効果を起こすような間接的な事業を検討してみるのもありなのではないでしょうか。渋沢翁を生んだ深谷から、新たなM&Aの思想が生み出されたら素敵ですね。

株式会社ディセンター代表取締役 折原 浩

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