「会社を伸ばすための経営学」(2023年5月号)を掲載しました
「本年度行う3つのこと」
深谷の皆様、こんにちは。今年はコロナ禍の数年間の影響があったせいか、大きな人事異動があったかと思います。中小企業経営を長年行っていると、自分の会社の部署移動はさほどないものの、関連会社や行政の人事異動などに慣れるのが大変ですよね。
定期的にコンサルティングしているお客様の中に、ちょうど事業承継を迎えている企業があるのですが、先日、その企業に赴き、「本年度は何をやっていくのか?」を話し合いました。その企業の社長は、私が中小企業経営者の中で、たった3人だけ「天才」と呼んでいる方です。会社も、コロナ禍になる前に、いち早く、世の中の状況を考え、新たなビジネスモデルにシフトしたことで、ここ2~3年で売上が2倍以上、利益も数倍に大きくなりました。
後継者は20代後半の次男なのですが、天才の後釜ですから、とても大変だと思います。実際、現社長とは、キャリアはもちろんの事、基礎的な学力、思考力、人脈、信用など、ありとあらゆる面で至らなく、本人も大きく悩んでいます。でも、これって、当然ですよね。それに、彼には社長にない大きな才能があるのです。それが「愛され力」と「本質を射抜く力」です。
天才的な社長の元、急成長している会社には、コミュニケーションの問題がありがちです。その会社も、社長に決裁権が集中し、社長は強いリーダーシップを発揮して会社を率いています。社長自身は、柔らかい方なのですが、そうなると、どうしても社長に相談できないことや、会社の方向性が理解できない社員も多くなってきてしまっていました。しかし、後継者が見事にその間に入り、潤滑油のような役割をしたのです。社内の風通しも良くなりましたし、内外からの情報も豊富に集まって、意思決定などに活用できるようになったのです。社内雰囲気も、若干柔らかくなったような気がします。
そして、今回、本年度の抱負を彼に聞いたところ、「昨年はやることが多すぎでバタバタしてしまったので、本年度は、3つだけ決めてそこに集中する」とのことです。確かに、性格の良い彼は、人の意見を聞きすぎてしまうこともよくあり、業務も広がり、多忙になりがちでした。そこで、本年度は、3つの柱を決めて、それを確実に実行していこうと考えたのです。
その3つの中身も、確かに今、その会社に必要なこと、本質的なことを言い当てていますし、「バランス、分量ともに良し」の内容でした。事業目標を決めるにあたり、焦点を外さないことは非常に重要なことです。彼も数日間悩んだそうですが、堂々巡りをしていた分、深く考えることができ、考えつくしたからこそ、すっきりと意思決定できたのだと思います。
皆さんも、新年度にあたり、目標を定めてみてはいかがでしょうか。難しく考える必要はありませんが、深く考えて、絶対に成し遂げるようにするのです。1つでも良いですが、この若手経営者のように3つと決めると考えやすいかもしれません。できる限り、「売上を上げる」といった抽象的で結果的なものではなく、具体的で行動することによって「やった、やらなかった」の評価をできるものにしましょう。
渋沢栄一翁は、「自分が信じないことは言わず、信じたからには必ず行うという思いが強くなれば、自然に言葉は少なく、行動は素早くなる」と不言実行をおっしゃっていますが、なかなか実行に移せない方は、決めた目標を、周りに言ってみるのも良いかと思います。社内の人でも良いかと思いますが、例えば、商工会議所職員などはいかがでしょうか。きっと、目標に向かって伴走型支援してくれるはずですよ。
株式会社ディセンター代表取締役 折原 浩